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福岡から移住してきて早4年。「ほんのちょっとだけ人生が変わる出会いを、長崎で。」をコンセプトに、暮らしや仕事を通して出会い、人生が豊かになるキッカケを与えてくれた、魅力的な長崎人を紹介していきます。記念すべき?第1弾はでじま芳扇堂の若夫婦の情熱的なお話を伺います!
出演者 & ライター
Featuring & Writer
Editor
坂井桂馬
DMO NAGASAKI
パブリックリレーター・ビジネスプロデューサー
福岡から移住してきて5年目。「ほんのちょっとだけ人生が変わる出会いを、長崎で。」をコンセプトに、暮らしや仕事を通して出会い、人生が豊かになるキッカケを与えてくれた、魅力的な長崎人を紹介していきます。
2023年春、長崎・出島に1つの小さなお店が誕生。
その名も「でじま芳扇堂(ほうせんどう)」。暖簾をくぐると、奥から割烹着姿の女性が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。店内を見渡すと、うつわギャラリーに来たのかと思うくらい洗練されている。「おしゃれだなぁ」と思いながらふと見ると、隣の部屋では男性が黙々と作業中のようだ。「ここはどぶろくの醸造所なんです。」と先ほどの女将が紹介してくれた。そして奥に進むと、さらに上質な空間が。「ここは昼吞み推奨のBARです」ということ。ワクワクしながら席に着くと、隣の部屋にいた男性もBARカウンターに。「ここは一体どんな場所なんですか?」と尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「この場所は、ただお酒を売る、飲むという場所ではなく、日本人が大切にしてきた食文化を次世代へ継承していくための新たな拠点にしていきたいんです。」
そう語ってくれたのは、先ほどまで作業部屋にいた、職人の雰囲気が漂う日向勇人さん。
「トガってはないけど、周りから見るとトガっているように見えたんですかね。」と笑いながら話してくれた勇人さん。「同じような価値観を持ったコミュニティの中で、小さく生きるのではなく、広い世界を見て色んな価値観に触れながら、大きな夢を描きたい」という想いで、高校卒業後は京都の大学へ進学。ただ、やりたいことや、チャレンジしてみたいことはなかったため、大学進学後はどうしようかなと迷う瞬間もあったが、「1番居心地が良かった」という理由だけで、能楽部に入部。しかし、この能楽部の活動で出会った師匠が勇人さんの軸を強く太くしていったのだそう。
「最初は能の良さが全くわからなかったんです。もちろん師匠が言っていることも全然わかりませんでした。でも、これまで何百年と歴史を紡いできた伝統芸能を理解できないというのは、自分の向き合い方がよくないのではと思い、歯を食いしばりながら必死で勉強しました。そして日々の学びを積み重ねた結果、自分の中で何かがバチンと繋がったんです。それは、自分がわかる、わからないということではなく、これまでこの文化を継承し続けてきた時間や時代を理解し、それをどのように伝えきることができるか、という視点の持ち方が大切なんだなと。だから、大学時代に明け暮れた能は、今でも続けているんですよ。」と話してくれた。そして、「『今でも続く日本の古き良き伝統産業で、能のように自分が誰かに伝えられる仕事は、お酒造りかもしれない』と思い、酒の作り手になりました。だから、ここは単にお酒を売る場所にはしたくなかった。だって、お酒のルーツは私達日本人がこよなく愛する『米』ですからね。自分が学んだ能と同じように、これまで先人たちが紡いできた食という文化の形を、次世代に継承していけるような、そんな場所にしていきたい思っています。」と、でじま芳扇堂が伝えたい価値を語ってくれた。
BARは私の原体験を愉しんでもらう空間
アツく語ってくれる勇人さんの隣で、勇人さん以上のペースでお酒を飲みながら、そんな話をしてくれたのは、女将・咲保さん。長崎市出島町生まれ、出島育ちの咲保さんは、幼いころから「お酒が近くにある暮らし」を楽しんでいたそう。
「お酒のアテを母が作り、そのアテに合うお酒を父が選んでて。そんな日常が好きだったんです。だからこのBARは、『子どもの頃の原体験を、皆さんに愉しんでもらえる空間に』というコンセプトを立て、徹底的にこだわりました。」と咲保さん。外からはこのBARが見えないので、お店に入ったときは「こんな空間があるのか!」と驚いたことを思い出した。
そんな、咲保さんの原体験である「料理とお酒」を愉しめ、暮らしに彩りを添えてくれるうつわギャラリーもあり、どぶろくの醸造所と販売も兼ね備えている「でじま芳扇堂」のルーツとなるこの場所は、実はその昔、咲保さんの祖父・秀夫さんの骨董品ギャラリーだったということなのだ。
1度長崎を出たからこそ、長崎の魅力に改めて気づいた
「長崎のことは大好き。好きだからこそ、1度出てみないとこの街の価値はわからないと思った。だからこそ、戻ってくるときには祖父の大好きな場所だったこの場所から、何かをやってみたいと思っていた。」そう力強く語ってくれた咲保さん。大学卒業後、県外で就職して数年経った後、「戻ってきたいが、まだ力不足で独立する自信がなかった。」というタイミングで「本当に偶然」九州の酒蔵で働くことに。そこで勇人さんと出会い、2人でお互いの夢を叶えるために「でじま芳扇堂」を立ち上げ、上京し、浅草での活動が始まった。しかし、祖父・秀夫さんの亡き後、この場所に入居していた酒屋さんがコロナ禍で閉店することに。「チャレンジするなら今しかない」と覚悟を決め、祖父・秀夫さんや酒屋さんの想いを受け継ぎ、未来に託していく拠点をこの場所に創ることを決めた。
「生きる」という本質に向き合える空間を
「開業準備中の記憶は、残ってないですね(笑)」ということで、開業準備中の思い出はあまり書き記せないが、「過去最多の打合せ回数だったと設計士に言われました(笑)」と話してくれた。今では笑えることも、当時は日々様々な困難にブチ当たりながら、2人の想いの強さでその壁を突き破ってきたのだなと感じた。そして、長崎に戻ってきてから約半年後の2023年3月に、念願の「でじま芳扇堂」の開業にこぎつけたという。
「この空間は、『自分達が好きなことをカタチにしている空間』なんです。」2人はそう話をしてくれたあと、「今の日本人は本当の意味で感動体験が足りないんじゃないかな。」と勇人さんが言い、咲保さんもこう続けてくれた。「1次産業に従事する方が大切に育てた素材でも、『いい素材』でなければ流通に乗らないし、私達はその素材とは出会えない。でもその『いい素材』という物差しはあくまでも『市場にとっての物差し』であるだけ。命を削りながら育ててくれた方々の想いが届かないというのは、残念だなと。だから、私達は、これまで何百年と日本の食文化を支えてきた1次産業の価値に気づきを与えるために、自ら生産者のもとへ足を運び、市場では『いいもの』と判断されなかったものを、「料理」として編集し、その価値を伝えることで、「イイモノ・ホンモノ」ではなく、「本質」と向き合ってもらいたいと思ってます。そして、単純に「美味しい」って感動してもらいたいんです。」
そして勇人さんがこう続けてくれた。 「うつわもいい風土で育まれた結果の産物。つまり、自然の恩恵でできたものなんですよね。でもそれだけではなく、そこに職人さんのクリエイティブな発想が掛け合わさることで、唯一無二の作品が出来上がる。でじま芳扇堂は、大量生産、大量消費ではなく、人、土、ごちそうの1つ1つの本来の姿に気づきを与え、日々の暮らしを豊かにできる場所でありたいです。」
食べることは、生きること。食べるって楽しい、生きるって楽しいと思ってもらえるように
この出島町の一角に、こんなに大きな想いや夢を抱いた若い2人がいるなんて、こんなに素敵なことはない。長崎市に来たら、ぜひ立ち寄って頂き、2人の生き様を感じてもらいたい。しかし、2人はこうも言っていた。「たくさんいろんな話をしましたが、そんなに難しく考えないで、食べることって楽しいんだなと思ってもらえれば、それだけでいいです!」
1度訪れたら、また会いに来たくなる。そして、近くにいたくなる。そんなキッカケになりますように。
(予約優先)酒と器を愉しめるアートなギャラリーで日本酒BAR体験
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