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長崎人を夢中にさせ続けて400年!?「長崎ハタ」の魅力に迫るハタ作り体験
2024.02.29

長崎人を夢中にさせ続けて400年!?「長崎ハタ」の魅力に迫るハタ作り体験

長崎くんち・精霊流しと並ぶ長崎三大行事「ハタ揚げ」を知ってますか? ハタとは和紙と竹でできた空に揚げる凧(タコ)のことで、糸を空中で切り合う「喧嘩凧」が400年以上にわたって長崎人たちを熱狂させ続けているそうなんです。熱狂の理由は? どうしてタコじゃなくてハタ? トリコロールカラーなのはなぜ? 長崎ハタ作り体験を通して、地元出身の私も知らなかったハタの謎と魅力に出会います。

今回の旅人

Traveller

ひとこと

長崎のふしぎに出会う旅

Guest

ヨシフクホノカ

Z世代に絶大な支持を受ける「エモい」系カルチャーを代表するアーティスト。ノスタルジアを喚起させるレトロポップなタッチの作品が話題となり、大手アパレルブランドとのコラボレーションを次々と実現。

長崎県出身。

長崎くんち・精霊流しと並ぶ長崎三大行事「ハタ揚げ」を知ってますか? ハタとは和紙と竹でできた空に揚げる凧(タコ)のことで、糸を空中で切り合う「喧嘩凧」が400年以上にわたって長崎人たちを熱狂させ続けているそうなんです。熱狂の理由は? どうしてタコじゃなくてハタ? トリコロールカラーなのはなぜ? 長崎ハタ作り体験を通して、地元出身の私も知らなかったハタの謎と魅力に出会います。

春の長崎ハタ揚げ大会が楽しみ!
ヨシフク ホノカ

長崎ハタ、そのデザインと名前の由来は?

こんにちは。イラストレーターのヨシフクホノカです。私は長崎生まれですが、長崎市は暮らしている場所から離れていたので、私にとってもお出掛け先であり、観光のまちです。
地元を離れて暮らす今、県外の友だちに長崎市内を紹介するつもりで本気で旅を楽しみました。

今回訪れるのは、長崎市の中心エリアにある長崎ハタ資料館「小川ハタ店」。ハタ揚げの名所であり、坂本龍馬像があることでも知られる「風頭(かざがしら)公園」の隣にあります。
長崎駅から車で斜面の街を上ること約15分。予約してからずっとハタ作りとハタ揚げができるのを楽しみにしていたのに、今日に限って土砂降りの空…。一向に止む気配がありませんが、晴れるのを祈りつつお店にお邪魔します。

扉を開けると目に飛び込んできたのは、ところ狭しと飾られたありとあらゆる凧の色。「すごいカラフル!」。まるで万華鏡をのぞいたように鮮やかな世界で、雨の憂鬱も忘れて思わず気分が上がります。
明治40年創業の老舗ハタ店3代目、笑顔が素敵な小川暁博さんに、まずは店内を案内してもらいます。よろしくお願いします!

まずこの赤青白を基調にしたのが全部長崎ハタです。同じ県内の凧では平戸の鬼洋蝶(おにようちょう)や、五島のばらもん凧なんかも有名ですね。蝶の形をした沖縄の凧とか、鳥の形をしたフランスの凧や中国のもあります。どれも長崎ハタとはずいぶん雰囲気が違うでしょう?
小川さん
たしかに! なんで長崎ハタってこんなにおしゃれなデザインなんですかね?
ヨシフク
ホノカ
実はね、長崎に入港していた貿易船の国旗を模したと言われているんですよ。出島で交易が盛んに行われていた頃から、長崎の空にはハタが揚がっていたそうです。オランダ人のお供として来ていたインドネシア人から広まったという説が有力ですよ。
小川さん
本当にこの長崎の港に貿易船が出入りして、異国の人たちが暮らしていたんだなと実感が持てるエピソードですね! そういえばずっと気になってたんですが、なんで長崎では凧のことを「ハタ」って呼んでるんですか?
ヨシフク
ホノカ
インドで凧を意味する「パタン」という語に由来するという説や、「旗」から来ているという説がありますよ。
小川さん

400年以上続く、ハタ揚げの熱狂!

ハタ揚げは、子どもよりも大人の方が熱狂するんだとさっき耳にしたんですが、なんでですか?
ヨシフク
ホノカ
それは語り出したら止まらんほどあるけど、やっぱり自分のハタを空中で自由自在に操って、バチバチぶつけ合って喧嘩して、勝負をつけるからじゃないかな。上空に揚がる部分の糸にはガラスの粉を付着させた「ビードロよま」という糸を使うんです。それを相手の糸に引っ掛けて、切ったら勝ちというルールです。
小川さん
これが「ビードロよま」ですね! 触るとチクッとします。糸が切れた凧はどこかに飛んでいってしまうってことですよね。なんだかもったいない気がします。
ヨシフク
ホノカ
それがまた魅力の一つでね、糸が切れた時点で凧の所有権はなくなるから、最初に拾った人のものになるんです。どの辺りに落ちるか予想して拾いに走る「ヤダモン衆」と呼ばれる人たちもいるほどですよ。
小川さん
空中での勝負に加えて、凧の争奪戦まで! 大人が夢中になる理由がちょっとわかった気がします。それが長崎に400年以上根付いているんですね。
ヨシフク
ホノカ
18世紀末〜19世紀前半には、勝負がエスカレートして人間同士の喧嘩や乱闘に繋がったり、ヤダモン衆が畑を踏み荒らしてお百姓さんから苦情が出たりしてね。長崎奉行から何度も禁止令が出されたそうです。それでもしばらくすればまたやっちゃう。長崎人は根っからの「ハタ好き」なんでしょうね。
小川さん
禁止令を破ってでもやりたいくらい熱中する人が多かったんだ! 長崎ハタのこともっと知りたくなって来ました。
ヨシフク
ホノカ

自分の手で長崎ハタを作る

いよいよ楽しみにしていた長崎ハタ作り体験スタートです。
私は今回、かわいい鳥が印象的な「波に千鳥」を選びました。伝統紋様の中でも人気の紋様で、荒波を乗り越えて活躍するという意味がある縁起物なんだとか。
他の模様にもそれぞれいろんな意味があって、長崎では開業祝いや結婚祝いなど、おめでたいシーンで飾り用のハタを縁起物として贈る習慣があるんだって! 

目の前で見て気づいたけど、紋様は紙に描かれているんじゃなくて、各色の紙を切って、貼り合わせて表現してあるんだ! すごく手が掛かっていますね!
ヨシフク
ホノカ
そうよ。特注の手すきの和紙を自分で染色して、それを切ったものを貼り合わせているんです。そうするからこそハッキリと鮮やかな色が出て、空高く揚がった時に映えるんですよ。遠くからもよく見えるから、隠れキリシタンの方たちは狼煙(のろし)代わりに使っていたとも言われていますよ。
小川さん

竹でできた十字の骨組みに、ピンと糸を張って作られた菱形の原型。まずはその縦の骨の片面に指で糊を塗っていきます。指で糊を触るなんていつぶりだろう。久々の工作に胸が躍ります!

糊をつけたら裏返し、慎重に紙に貼り付けます。あとは四方の糊しろに糊を付け、糸を和紙で包みこむように順に貼っていきます。
最後に左右の端っこに「ひゅう(飛尾)」と呼ばれる飾りをくっつけたら完成です!


「やったー、できたー!」。完成の達成感と、しばし無心で作業した時間は、ちょっとしたごほうびのようなひとときでした。実際に空に飛ばせるように、小川さんが糸を結んでくれます。

春になったらハタ揚げしよう

あ、雨が上がってる! もしかして今からハタ揚げできますか?
ヨシフク
ホノカ
んー、今日は無理ばい。雨が止んでも上空はまだ湿気がたっぷりだから、和紙でできたハタは水分を吸って破けてしまうと。ハタ揚げまでさせてやりたかったけど残念やったね。持って帰って、晴れた日にあげてみてね。
小川さん
そうかー。残念ですがしょうがないですね。ハタ揚げするときのコツを教えてください。
ヨシフク
ホノカ
凧は走って揚げるのが普通だけど、長崎ハタは走らずに紙飛行機を飛ばす要領で揚げるのがコツね。こうやってハタを地面と水平にしてスッと前に投げるようにしたら、風に乗るよ。あとは糸を引いたりゆるめたりしてやってみてね。
小川さん
わかりました! やってみます。ハタ揚げ大会もぜひ見てみたいんですが、いつ頃開催されているんですか? 喧嘩凧の様子が見られますか?
ヨシフク
ホノカ
もちろん見れますよ! ハタ揚げ大会は毎年春先に毎年やってます。全国的には凧は正月に揚げるものですけど、長崎では昔から春に揚げています。正月のように北風が強すぎる日は、揚げる時にビードロよまで指を怪我してしまうからね。
東京でも春には河川敷でハタ揚げ大会をしてますから、長崎か東京か都合のいい方にぜひ来てくださいね!
小川さん

東京でも長崎のハタ揚げが行われているとは知りませんでした。春のお出かけの楽しみが増えてうれしい! 今日はあいにくの天気でハタ揚げ体験は叶いませんでしたが、職人の小川さんに習いながら楽しくハタが作れたし、長崎ハタの熱狂の謎が解けてとっても楽しい1日でした!

完成したハタは空に揚げる日まで、自分の部屋に飾って楽しむことにしました。シンプルなデザインがインテリアに馴染んでるし、和紙だから光が透けてとってもいい感じです!